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    と、彼は思ひ出したやうに房一の顔をのぞきこんだ。それは、いつか道平を診察しての帰り路で、「あれだね、君は見かけによらない親思ひなんだね!」と叫んだ時とそつくりな感嘆をまじへた親しさといつた色が閃いていた。

    「や、ありがたう」

    彼女はその表情を少しもくづさずにすつと引き下つたが、間もなく帰ると、

    「いや、鳴つた。出張所の鐘がたしかに鳴つていた」

    と、それまで鹿爪しかつめらしい表情をくづさずにいた仲買の富田が、突然半畳を入れた。どつと立つた笑ひ声で、聞きとれなかつた者までがふき出した。

    と、無邪気に、呆あきれたやうに云つた。

    「どうして?血はつゞいていなくてもこゝの家とは親類ぢやありませんか」

    徳次は指で真似をした。

    この云ひ分はいつでも何かあるごとに、練吉の口に上つた。正文の前でも云つた。何年かの間繰り返された練吉の云ひ分だづた。

    今、彼の目の前には大石医院の塀づくりの家が立つていた。その家は彼が借り受けたあの古びた家とふしぎに似通つていた。ちがふのはもつと大きやかで、手入れのよく届いていることだつた。築地の壁土は淡黄色の上塗りが施され、一様に落ちついた艶を帯びていた。そして、玄関に向ふ石畳は途中二つに分れ、右手は別建の洋風な診察所につづいていた。房一は瞬間どちらへ行つたものかと思つたが、左手によく拭きこまれた玄関の式台を見ると、まつすぐその方に進んだ。

    「はあて、神主さんになるのもえらいもんだのう」

    「それをよこしたまへ。二足なんていらんよ」

    「え?いや、居ましたよ、居ましたけど、別に――」

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