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    盛子は、歯切れのいゝピツと語尾の跳ね上るやうな調子で、愛想笑ひをしながら小谷に訊いた。

    「こゝの消防演習をやつたのだ。そんなに騒ぐことはない」

    「はあ!さう――ですね」

    と、それまで鹿爪しかつめらしい表情をくづさずにいた仲買の富田が、突然半畳を入れた。どつと立つた笑ひ声で、聞きとれなかつた者までがふき出した。

    「印度洋の方では、何とかいふ軍艦がたつた一隻で荒あばれまはつているんだつてね。それがちつとも捉つかまらないと云ふから面白いねえ」

    道平は顎髯を剃り落してしまつていた。

    「やっぱり半之丞の子だったですな。瓜うり二つと言っても好よかったですから。」

    今泉は元陸軍の下士官であつた。退役後彼は河原町に帰つて役場につとめた。生れは河原町の在で、そこに帰れば自作農程度の田地があつたが、どういふものか野良仕事がすつかり嫌ひになつていた、彼は聯隊か、師団司令部の表札がいつまでも好きだつた。彼の話の中には聯隊長だとか師団長だとかがよく出て来た。又、自分の下士官時代の上長官の名をよく覚えていて、時々異動の発表されるごとに新聞紙を丹念に読み、「ほう、少将進級か」とか、「ふむ、アメリカ大使館附か」とか、しばしば感嘆の声を洩すのであつた。

    道平が口をうごかせるまでには随分手まどつた。

    根津はだまって答えなかった。その翌日、彼は城外で戦死した。

    「だつて、喜作さんはこの土地にはいないでせう」

    「ほう、いつから」

    「畜生、おぼえていろ。」

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